2014年12月29日月曜日

ゲーム、マンガ、アニメなどのフィクションの影響

以下、雑文です。

「人びとの想像力によって作られた虚構の世界に関する作品」をフィクション(Fiction)と定義する時、ゲーム(ビデオゲーム)、マンガ、アニメ、ライトノベル等をフィクションの一部である、と見ることができます。ここでは、フィクションの影響について、その「好影響」あるいは「悪影響」と指摘されてきたものを挙げて、検討してみたいと思います。


■フィクションの「好影響」として挙げられてきたもの
1)楽しさや気分転換、癒し
 フィクションが提供する物語を読むことや、ゲームが提供する課題とその達成は、受け手に楽しさや達成感、有能感をもたらし、日常のストレスを解消する効果があります。

2)社会関係の形成
 オタクのステレオタイプは、「部屋で一人で孤独にフィクションを消費する男性」というものですが、コミケットをはじめとする様々なファン・イベント等が示しているとおり、フィクションは、それを作る人、仲介する人、受容・消費する人の間で親密な社会関係を形成します。たとえば、社会学者でマサチューセッツ工科大学准教授のT.L.テイラーは、MMORPGが形成するオンライン/オフラインが既存の社会関係を強化したり、新しい社会関係を形成することを指摘しています。

3)新しい表現
 過去の作品は、それらを受容した人びとが新しい作品を生産し、消費・解釈する土台になります。

4)市場や産業、雇用、人材の創出
 フィクションは、市場や産業、その制作者や仲介者(メディアや小売店など)の雇用を生み出します。また、フィクション制作による生計維持を可能にする市場(コミケットやワンフェス等を含む)の存在は、新しいフィクションの担い手を生む土壌になっています。

5)教育効果
  フィクションはそれが表現する社会や世界の理解に役立つと指摘されています。多様な社会的世界(会社、街工場、病院、警察、大学、司法、政治、学校、刑務所、他の世界の地域など)や時代を描いた小説やマンガ、ゲームを見たりプレイすることは、舞台になった社会を大まかに理解することに役立ちます。 たとえば、「信長の野望」や「三国志」は歴史を、「桃太郎電鉄」は日本地理を学ぶことに役立つ、という指摘があります。

6)犯罪の抑制
 たとえば、性表現は、性衝動を抑え、性犯罪を抑制する効果があるという指摘があります。

7)ソフト・パワー
  国際政治学者ジョセフ・ナイは、ある国の持つ文化や政治的価値観、政策の魅力等を「ソフト・パワー」と呼び、この力が国家の信頼や発言力を高めると指摘しています。ナイは、日本の芸術や食文化に加えて、「ポケットモンスター」をはじめとするアニメやゲームなどのフィクションが、日本の良いイメージを形成してきた、と説明しています。ソフト・パワーは、フィクションの制作や仲介に携わる産業だけでなく、観光や留学等を通して、日本のさまざまな産業や学術組織に、外貨や優秀な人材、交流をもたらしています。


■フィクションの「悪影響」として挙げられてきたもの
1)逸脱行動の助長
 好影響論の6)と逆に、フィクションは、表現の学習等を通して、暴力や性犯罪、社会的不適応を生むという指摘もあります。
 フィクションの効果は、社会心理学などで繰り返し研究されていますが、現在の所、フィクション自体よりも、受け手の性別、家庭の要因、貧困などが、逸脱行動に影響するということが指摘されています。また、フィクションのリテラシー教育の重要性も指摘されています。

2)非婚や晩婚、少子化
 悪影響とは必ずしも言えませんが、フィクションのキャラクターに対する恋愛感情や擬似的な家族形成(「俺の嫁」的な・・・)が、非婚や晩婚、少子化に影響を与えている可能性があります。
 2010年に実施されたコミケット35周年調査レポートは、コミケット参加者(サークル、スタッフ、一般)の既婚率が、著しく低いことを示しています。たとえば、コミケにサークル参加している35~39歳の男性の既婚率は14.5%ですが、2005年国政調査によれば、日本に住む同世代の男性の既婚率は70%でした。
 ただし、1)と同じく、フィクション自体が非婚等に影響しているというよりは、受け手の価値観がフィクションへの選好や上記の行動に影響している可能性があります。

3)ジェンダー差別や、ジェンダー秩序の再生産
 フィクション内のジェンダー(性カテゴリーにより帰属される役割)表現が、ジェンダー差別であるという指摘や、現実世界におけるジェンダー秩序を再生産してしまうという指摘があります。

4)身体への影響
 とりわけゲームプレイについては、肥満や視力低下への影響が指摘されています。


■フィクションに対する態度
 フィクションには、 心理的・社会的・経済的・政治的影響などがありますが、それらが実際にどの程度の影響であるか、どの影響を重視するかについては、議論が存在します。
 フィクションの受け手としては、
 1)影響(やその主張)の多様性を理解した上で、フィクションを自らの生活の向上のために活用する
 2)異なる影響を重視する人びととは、学術的な研究成果などを活用しながら、議論を通して折り合いのつく点を探す
という姿勢を取る必要があるかと思います。

 また、政策に携わる方には、フィクションが多様な影響を生みうることを深く理解した上で、政策の策定と実行を進めていただきたいと思います。たとえば現在、米国や欧州ではなく、わざわざ日本にやって来る留学生の多く(想像されているよりもはるかに多く)は、日本で受けられる教育や伝統的産業では「なく」、日本のポップカルチャーに魅力を感じて来日しています。そして、彼らが好む作品の制作者は、同人誌やアダルト作品の制作を通して育成された人材であったりします(たとえば現在、「妖怪ウォッチ」のアニメ監督をされている方は、美少女ゲームのTVアニメの監督をされてきた方です)。政策に携わる方には、フィクションの制作・仲介・消費・解釈の複雑な社会的因果関係の理解を通して、政策策定や実施にあたっていただきたいと思います。

2014年12月27日土曜日

菊とポケモン――グローバル化する日本の文化力

Allison, Anne, 2006, Millenial Monsters: Japanes Toys and the Global Imagination, The University of California Press.(=アリスン,アン,2010,実川元子訳『菊とポケモン――グローバル化する日本の文化力』新潮社.)のメモ。