浅野智彦, 『趣味縁からはじまる社会参加(若者の気分)』(岩波書店, 2011)のメモ。
https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/X/0284550.html
本書は、趣味、とりわけオタク的趣味に閉じこもる若者たちは公共性を失っている、という一般的主張に対し、「趣味縁(集団・関係)にはむしろ若者を社会参加に押し出す力があるのではないか?」という仮説を立て、これを検証しています。なお、「社会参加」「公共性」という概念は、それぞれ次のように定義されています。
・社会参加: 個人の力によっても親しい他者との協力によっても解決の難しい問題に向けて、必ずしも親しくない他者たちとの間に協力関係を組織していくこと。
・公共性: 親しい関係を超えて、その問題の解決に利害や関心をもつという以外の共通点が必ずしもない人々の間に協力関係を組織していくようなつきあい方の作法。
著者は様々なデータに基づき、1990年代以降、若者の友人関係が新しいコミュニケーション・ツールの普及によって濃密化する一方で、親密圏の外にいる人々との協力関係や連帯(公共圏)の構築が困難になりつつあることを指摘しています。その上で、親密圏と公共圏の分断という問題を解決する効果を、二つを媒介する位置にある「趣味縁」が持ちうるのではないか、という仮説を立てられています(1章)。
同仮説の検証に入る前に、著者はこの仮説の理論的・歴史的根拠を説明します。まず、この仮説の理論的根拠として、ロバート・パットナムが民主制の基盤として注目した「社会関係資本(=社会的ネットワーク、およびそこから生じる互酬性と信頼性の規範。二次的結社)」と趣味縁の深い結びつきや、『げんしけん』『フラワー・オブ・ライフ』のような現代的コンテンツを提示しています。また、この仮説が歴史的根拠を持つことを、日本における趣味縁と社会参加の関係とその歴史の論述に基づいて説明しています(3章)。
次に著者は、趣味縁が公共性や社会参加に対してどのような効果を持つかを、2007年に収集した社会調査データの分析(重回帰分析)に基づいて検証します。そして、概ね次のようなことを明らかにしています。
・趣味集団への参加、趣味集団を含む複数集団への参加、仲の良い友達の数、恋人交際経験は、公共性や社会参加と深く関わっている。
・高校での部活経験や、集団という形を取らない趣味縁(趣味に誰かと取り組むこと)は、公共性や社会参加とはあまり関係がないか無関係である。
・愛国心や生活満足度は公共性(一般的信頼)や社会参加を押し上げる効果がある。一方、愛国心は職場や身近にいる他者への寛容性を押し下げる効果がある。
最後に、趣味縁と公共性・社会参加が深く関わっていることを指摘した上で、趣味縁や複数集団所属、友人関係、愛国心等の効果に関するパネル調査や一層の研究の必要性を説明しています(4章)。
140頁弱の短い著作ですが、意外だけれど説得的な仮説、仮説を裏づける理論的・歴史的根拠、手堅い実証が凝縮されており、コンテンツの社会(科)学的研究のお手本と言うべき著作です。若い研究者の方には、是非一読をお勧めします。
著者の浅野先生は、若者文化や自己アイデンティティを専門的に研究されている社会学者で、東京学芸大学の教授です。2013年には、この本とも関係が深い、『「若者」とは誰か アイデンティティの30年』という著作を刊行されています。
http://univinfo.u-gakugei.ac.jp/u-gakugei/hp/tasano1.html
2010年に開催されたコンテンツ文化史学会の研究例会では、本書で扱われている計量データ分析の詳細な内容や、趣味の研究方法について説明されました。『コンテンツ文化史研究』5号には、先生が同例会で発表された論文が、他の研究者の方々の論文と一緒に掲載されています。なお、同特集は評判が良かったそうです。
http://www.contentshistory.org/2010/05/17/730/
http://www.contentshistory.org/journal/backnumber/
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