Jesper Juul, 『Half-Real: Video Games between Real Rules and Fictional Worlds』(The MIT Press, 2005)のメモ。
http://mitpress.mit.edu/books/half-real
コンピュータを利用するビデオゲーム、及びそれとプレイヤーや世界との関係を理論的に分析した著作。ゲームの構成要素、ルールとプレイ体験、ルールとフィクション、現実世界・フィクション世界・ゲーム空間、フィクションと物語の違いといった主題を、概念を一つ一つ定義し、それらを組み合わせつつ考察しています。
全体は大きく、「ルール」に関する章(2、3章)と、「フィクション」に関する章(4、5章)で構成されています。
2章では、先行研究のレビューに基づき、ゲームが成立するための六つの必要十分条件(=古典的ゲームモデル)を示した上で、このモデルを超えてビデオゲームが発展していることを指摘しています。「古典的ゲームモデル」の説明については、Juul論文の翻訳と翻訳された方の解説を読むことができます。また拙稿で同モデルを図式化してみました。宜しければ参考にしてみてください。
http://www.jesperjuul.net/text/gameplayerworld_jp/
http://d.hatena.ne.jp/hally/20051102
http://www.slideshare.net/nobushigehichibe/140310-digrajapanpresentation
3章では、ゲームのルールとプレイ体験の関係を分析します。コンピュータ科学や複雑性の議論を利用して、ビデオゲームを「創発型(Games
of Emergence)」と「進行型(Games of
Progression)」に分類しています。「創発型」は、単純なルール、それとプレイヤーの戦略が結びついて多様な状態や結果(最終状態)を生むゲームで、「将棋」「サッカー」「テトリス」などが代表例です。「進行型」は、課題や解決策の手順が厳密に制作者に定められているゲームで、物語を読ませることや謎・パズルを解くことを主眼にしたアドベンチャーゲームやノベルゲームが典型です。Juulの「創発型」「進行型」「ハイブリッド型(創発型+進行型)」については、アーネスト・アダムス『ゲームメカニクス』でも解説されてますので、こちらも参考にしてみてください。
http://www.sbcr.jp/products/4797371727.html
4章では、ゲームのフィクションとしての側面が考察されます。Juulによれば、「ルール」は客観的、拘束的、明瞭、議論の余地のないものです。これに対し、文字、グラフィック、音楽、宣伝、マニュアル、噂、あるいはルール自体を使ってディスプレイに投影され、またプレイヤーに構成される「フィクション」の世界は、主観的、選択的、曖昧、議論の余地のあるものです。また、ルールが現実世界でのプレイで私たちの行動を規定する(入力装置の操作など)点で「リアル」であるのに対し、フィクションは不完全でプレイヤーの想像に依存すると述べられています。
5章では、ルールとフィクションの相互作用が多様な事例を用いて説明されます。「ルール」という現実的なものとフィクション世界が結びつけられている点で、ビデオゲームは映画や小説と異なり「Half Real」「Half Fiction」という特徴を持つと説明されています。
コペンハーゲンIT大学に提出された博士論文であるだけあって、概念や概念間の関係が本文や特設ページで明確に定義されています。また、映画学や文学研究からゲーム学を自律させるというほとんど達成不可能なミッションを遂行した、記念碑的「独立宣言」の書でもあります。ゲーム研究の助けになってくれる本です。
http://www.half-real.net/dictionary/
Jesper Juulさんはデンマーク出身のゲーム研究者・制作者で、デンマーク王立芸術アカデミーの准教授です。2014年3月には、立命館大学ゲーム研究センター主催「京都ゲームカンファレンス」にも登壇されています。
http://www.jesperjuul.net/
http://www.rcgs.jp/2014/02/201438.html
以下、目次です。引き続き、誤訳はご容赦を。
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序文第1章 導入
第2章 ビデオゲームと古典的ゲームモデル
第3章 ルール
第4章 フィクション
第5章 ルールとフィクション
第6章 結論
注
文献
索引
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