コンピュータ(計算機)を用いるゲームを何と呼ぶかは、いつも悩みます。
ゲーム研究の入門書を作る際にも、本のタイトルについて、下記の案がありました。
・ゲーム研究入門
・ビデオゲーム研究入門
・デジタルゲーム研究入門
1つ目は、もっとも無難なタイトルですが、学術書として刊行した際に、「ゲーム理論」の本と間違われる可能性があるというご指摘を編集者さんから頂いたので、選びませんでした。
次に、2つ目と3つ目のタイトルのどちらにするかを考えました。私自身は「ビデオゲーム」という言葉を使うことが多く、また、「デジタルゲーム」という言葉は、意味がやや曖昧であるため、2つ目と3つ目の案のどちらを選ぶかを、1年ほど考えていました。最終的に、「日本デジタルゲーム学会」の方が多い本だったため、3つ目のタイトルを選びました。なお、本の序章の注2に、その葛藤の跡が遺されています。
デジタルゲームという言葉が問題である理由は、この概念が適用される事物の共通特徴が、明確に定義されていないで用いられることが多いことです。日本デジタルゲーム学会の規約でも、この概念は明確に定義されていません。
http://digrajapan.org/?page_id=219
仮に、デジタルという言葉を、連続的な量(情報)を、離散的な数値で表示すること、という本来の意味で用いると、デジタルゲームという概念の適用事例として想定されるゲームの一部は、アナログゲームになります。また、デジタルゲームと考えられていないゲームが、デジタルゲームになります。たとえば、デジタルゲームの歴史で良く取り上げられる「Tennis for Two」は、アナログ計算機を用いたゲームなので、上記の定義に基づくと、デジタルゲームでなく、アナログゲームです。他方、将棋やチェスのようなボードゲームは、上記の定義ではデジタルゲームです。
このような曖昧さがあるため、デジタルゲームという概念を用いることに批判的な研究者もいます。松永伸司さんや、ギャリー・クロフォードなどですね。
これらの人々は、ビデオゲームという言葉を用いることが多いです。画面を見て遊ぶゲームを意味する「ビデオゲーム」という言葉は、コンピュータを用いるゲームを示す際には、「デジタルゲーム」より適切であると、私も思います。ただ、この言葉からは、コンピュータを使うけれど、画面を「見ないで」遊ぶゲームが除かれてしまいます。『風のリグレット』のような、オーディオゲームと呼ばれるゲームですね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%89
「Replaying Japan 2019」で、現立命館大学のロート・マーティンさんにお会いした際に、この分野のゲームを研究しているライプツィヒ大学の学生さんを紹介して頂きました。また、先日、DiGRAのMLで、「No Video Jam」という画面を見ないで遊ぶゲームの制作イベントの情報を見かけました。「ビデオゲーム」でないコンピュータゲームへの注目が集まっているのかもしれません。
https://itch.io/jam/no-video-jam
ということで、コンピュータを用いるゲームを指す言葉として、「コンピュータゲーム」という言葉を使うのが良いかもしれない、と最近は考えています(この言葉が、海外では「PCゲーム」を指すことが多いという別の問題はありますが)。「情報社会論」という授業で、コンピュータやインターネットの説明をした後に、ゲームを取り上げた際にも、コンピュータ(計算機)との連続性が明確になる「コンピュータゲーム」という言葉を使いました。また、授業で用いる「ゲーム」「コンピュータゲーム」「デジタルゲーム」「ビデオゲーム」という用語の意味と適用範囲を、それぞれ説明しました(添付)。
とはいえ、「テレビゲーム」や「ビデオゲーム」という言葉も、テレビ受信機を個人が自分のために使うようになりつつあった時代を、学生に理解してもらう際には有用です。また、日常的には、「デジタルゲーム」という言葉も、スポーツやボードゲームなどとは違うゲームを大まかに示す際には、その意味を定義していれば、あまり問題がないように思います。ですので、目的に応じて使い分けていきたいと思います。
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